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大阪地方裁判所 平成7年(わ)4041号 判決

裁判所書記官

森康清

本店所在地

大阪市淀川区西中島四丁目三番四号第六チサンビル三〇七号

有限会社サンフラワー

(右代表者代表取締役 巽満)

(同 川野勝司)

本籍

兵庫県神戸市兵庫区熊野町一丁目二一番地

住居

大阪市阿倍野区共立通二丁目七番一六号

会社役員

巽満

大正七年八月一三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤田信宏出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社サンフラワーを罰金八五〇〇万円に、被告人巽満を懲役二年六月にそれぞれ処する。

被告人巽満に対し、この裁判の確定した日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社サンフラワー(以下「被告会社」という。)は、大阪市淀川区西中島四丁目三番四号第六チサンビル三〇七号室に本店を置き、不動産の賃貸業等を営む資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人巽満(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが、被告人巽満は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一〇億九五六八万六五一九円で、これに対する法人税額が四億七五五万四二〇〇円であるにもかかわらず、退職金の水増し計上及び架空の雑損失等を計上するなどの行為により、その所得の一部である一〇億一六七六万五四四二円を秘匿した上、平成四年七月二四日、同市淀川区木川東二丁目三番一号所在の東淀川税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七八九二万一〇七七円で、これに対する法人税額が二六二六万七三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税額申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、右事業年度の法人税三億八一二八万六九〇〇円を免れたものである(別紙1の修正損益計算書及び別紙2の税額計算書参照)。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書五通

一  蒲田寿二郎、川野勝司、川野光敏、田野哲治、下間茂、津田晴規、下村邦行の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の捜査報告書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書七通

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官作成の証明書二通

一  法人登記簿謄本

(法令の適用)

被告人の判示行為は、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、情状により平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文によって同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示所為につき、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、罰金額をその免れた法人税の額以下とし、その金額の範囲内で被告会社を罰金八五〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

被告人の本件犯行は、ほ脱額が三億八一二八万六九〇〇円と非常に高額で、そのほ脱率も約九三・六パーセントと極めて高率であり、不正手段として退職金を水増し計上したり、被告会社が所有する不動産の売却を仮装して架空の不動産売却損や架空の不動産売買手数料を計上するなどしたものであり、悪質な犯行と言わざるを得ない。

また、被告人は、本件犯行の動機として、前経営者夫妻が被告会社を受取人として掛けていた生命保険金が債権者の担保とされていたため全額負債の支払いに充当され、したがって、同社には金が入らないのに、税金だけ払わなければならないことになり理不尽であると考え、税金をできるだけ安く済ませようと考えたことにある旨述べるが、法人税法上生命保険金が益金に算入されて課税されている以上、動機において特に酌量すべきものと思われない。

なお、弁護人は、公表された役員退職金四億三八〇〇万円のうち、現在の課税実務においても充分認め得る功績倍率を正しく活用してさえいれば、適法とされた金一億九八〇〇万円にとどまらず、三億円程度の申告も充分認めえたはずであり、税理士らの無知、怠慢が本件のような架空経費の計上という事態を生じさせた旨主張し、証人平木正行もこれに添う供述をなし、創業者の二人は、かなり大きく不動産業をやっていたので、功績倍率を五倍を下らないと思う旨述べる。

しかしながら、検察官も指摘するように、弁護人提出の平木事務所だよりによれば、全国税理士共栄会の情報化調査委員会が調査した結果の功績倍率の使用状況という表では、平均功績倍率が社長で三倍、専務取締役で二・六八倍、平取締役で二・一〇倍となっており、平均功績倍率が五倍というのは社長の最高功績倍率であるうえ、平木自身の作成した右事務所だよりでも、功績倍率の数値が一般に三倍程度までなら問題ない範囲と言われている旨記載してあり、平木自身右事務所だよりにおいて前記表を前提に三倍程度が問題にならない範囲であることを認めている。

田野税理士が月額二〇〇万円の報酬をもらっていた社長の川野衛一(以下「衛一」という。)について六〇〇〇万円、月額一〇〇万円の報酬をもらっていた川野公子(以下「公子」という。)については三〇〇〇万円の退職金なら税務署も損金として認めてくるれ提案し、退職金規定のない被告会社について、下野税理士が社長が三倍、専務取締役、二・五倍、常務取締役が二・三倍、常勤取締役が二倍とする退職金の支払規定のひな型を被告会社に送付したが、前記のようにすでに衛一について六〇〇〇万円、公子について三〇〇〇万円としている関係から、衛一については加算倍数を二・四倍にして退職金を五七二〇万円とし、功労金目当で二八〇万円を加えるという形で合計六〇〇〇万円としたものであり、また、公子についても加算倍数を二・三倍にして退職金を二七四〇万八三三三円とし、功労金名目で二五九万一六六七円を加えるという形で合計三〇〇〇万円としたものである。

田野税理士は昭和四〇年一二月に淀川税務署国税調査官を退官し、昭和四一年四月に税理士登録をなして、税理士業務を行って来たという経験があり、前記の全部はその経験から税務署が損金として認めてくれると判断した金額であり、下村税理士も昭和五三年二月に税理士登録をなして税理士業務を行ってきたもので、被告会社の退職金規定を作成する際の前記ひな型も、前記の全国税理士会共栄会の情報化調査委員会が調査した平均功績倍率とほぼ一致しており、以上のことを総合すれば功績倍率五倍が本件において現在の課税実務においても充分認められうる倍率として正しく活用すべきであり、税理士の無知、怠慢が本件をまねいたとの弁護人の主張は採用できない。

また、弁護人は西緑が丘の物件にかかる固定資産売却損約一億七〇〇〇万円については見識のある税理士等の適切な指導されあれば、完全に適法な経費の計上が可能であった旨主張し、同物件が被告会社の前代表者の妻である公子が生前購入した物件であり、同女の死後、同女の相続人川野勝司(以下「勝司」という。)及び川野光敏(以下「光敏」という。)の両名から被告会社が同物件を買い受けて、相続人から被告会社への所有権移転も受けた後に買主である高橋純一に移転登記をしておけば、ほ脱の疑い等を受けなかった旨主張する。

本件西緑が丘の物件については、被告人が平成三年九月終わりに蒲田寿二郎(以下「蒲田」という。)に対し、勝司と光敏が相続した右物件を賃借人の高橋純一に売却することの仲介を依頼し、蒲田は同年一一月一一日に国土利用計画法の届出をなす際、実体どおり勝司、光敏を譲渡人とし、高橋純一を譲受人とする土地売買等届出書を用意したところ、被告人がその契約直前蒲田にに対し、売主欄に被告会社の名前を入れておくように言ったことから、蒲田は被告会社の名前を売主欄に記載し、同年一二月六日に売買契約がなされた。そして、被告人から何とか税金が安くならないかと言われたことから、津田司法書士と田野税理士は同年一一月下旬ころ、西緑が丘の物件を被告会社のものだということにして売れば不動産売却損を計上することができるとして提案して、被告人が前記のように蒲田に対して被告会社の名前を入れるように言ったことが認められる。

そうすると、右のように被告人の依頼により仲介人の蒲田が勝司と光敏を売主、高橋純一を買主とする売買契約が成立しようとしていた段階において弁護人主張のようなことが現実的に可能かどうか明らかではなく、結局、公子が被告会社に生前の平成三年六月二四日に二億三九二〇万三〇〇〇円で売却したとの契約書を作成し、被告会社が高橋純一に七〇〇〇万円で売却したという形をとって一億六九二〇万三〇〇〇円の不動産売却損が発生したことにしたものであり、また、高橋純一には七〇〇〇万円で売却されており、被告会社がそれをはるかに上回る二億円を超える高額で買い上げて、それを高橋純一に売ることが適切な指導といえるかも明確ではない。

被告人は、被告会社の従来の顧問税理士が不誠実に思えたので、平成三年八月中に顧問契約を打ち切り、同月終わりころに下間税理士を選任したが、同人が比較的年齢が若く経験が浅く他にスタッフがいないと少々不安に感じて、勝司、光敏兄弟が相続関係で同年一〇月ころ田野税理士を頼み、さらに、平成四年二月ころ下村税理士に法人税の申告手続を頼んだものである。また、津田司法書士については、平成三年八月下旬に役員登記を依頼したのが初めてでその後仕事を頼んだものであり、いずれも右税理士及び司法書士は被告人が自らの責任で採用してその指導を求めたものであり、いずれも被告人からの求めに応じて本件各対応をなしたものである。

従って、弁護人の主張は採用できず、情状として考慮すべき事情とは思われない。

ところで、被告人は本件犯行を認め、自ら積極的に捜査に協力する等反省の態度を示していること、被告人はすでに修正申告を済ませ、被告会社の資産を売却して本税、重加算税の納付に努めており、平成七年五月三一日現在で国税、府税、市税など合計で四億八五〇〇万円近くの支払をなし、今後完納する見込みであること、被告人が被告会社の代表者になる経緯に考慮すべき事情があること、税理士の交替等経理体制を改善したこと、被告人には前科がないこと、被告人は高齢であること等を斟酌して、被告人に対しては主文の刑に処するがその執行を猶予することとし、また、被告会社については主文の刑が相当であると思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松下潔)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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